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第53話 氷点下の朝食と、不可視の境界線②

Auteur: 花柳響
last update Dernière mise à jour: 2026-01-24 06:01:08

「あそこのバラのこと。……湊、あそこが『放置されている』と思ってるんでしょ? 誰も世話をしていない、見捨てられた場所だって」

「事実だ」

 湊は私を睨みつけた。その瞳の奥には、昨日と同じ憎悪の残り火が燻っている。

「母さんが死んでから二十年だぞ。……あの女は、母さんの痕跡を消すことだけに執着してきた。あの温室も、取り壊そうとしたのを僕が断固として拒否したんだ。だからあの女は、あそこを『禁忌の場所』として封印し、朽ち果てるのを待っている。それだけだ」

 彼の声に、深い悲しみと怒りが滲む。

「水もやらず、手入れもせず。……母さんの愛したバラたちが、枯れて死んでいくのを、あの女は笑って見ているんだよ。……それが、この家のやり方だ」

 やはり、彼はそう思い込んでいる。

 継母である志保さんが、実母の思い出を虐げていると。

 確かに、志保さんのあの冷たい態度や、私への仕打ちを見ればそう思うのも無理はないかもしれない。

 でも、私が触れたものは違った。

「……違う」

 私は、はっきりと首を横に振った。

 湊の動きが止まる。

 信じられないものを見るような目で、私を見下ろした。

「……なんだと」

「違うのよ、湊。……あそこは、放置なんてされてない」

 ◇

「……お前、志保の肩を持つのか」

 湊の声が、さらに一段低く沈んだ。

 部屋の温度が急激に下がったような錯覚を覚える。

「僕がこの目で見てきた二十年を否定するのか。あの女が母さんをどう扱ってきたか、何も知らない部外者のくせに」

「部外者だけど……花のことならわかる!」

 私は一歩も引かずに言い返した。

 プロとしてのプライド、そして何より、私の指が感じた「事実」を彼に伝えたかった。

「湊、よく聞いて。……
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